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日本国際連合学会報告2 [学業]

遅ればせながら第2回目のまとめをします。

「国連事務総長報告書の批判的検討」内田教授

ハイレベル委員会報告書の検討に続いて、内田教授から事務総長報告書の検討に移った。まず報告書を見るうえでの視点を解説。報告書とは政策提言であると同時に基準であるとして、3つの評価ポイントがあると述べる。

1.脅威がしっかりと分析されているか。(分析力)
2.対処として有効なものであるか。(有効性)
3.有効にしても、実際に支持される内容か。(実現性)

そして、教授は議論の展望として国連が強化されるかどうかの議論は9月に決着が去れず、それ以降も続くだろうとして、これを「中間的な報告書」であるとした。

1.報告書の歴史的コンテキスト
報告書の検討においてはまず内田教授は報告書の歴史的コンテクストをまとめる所か始められた。その理由は歴史的な蓄積として現在の報告書が成り立っているからだ。

1)冷戦終結後になると、安全保障と開発との相互依存性の模索があり、まずガリ事務総長が「平和への課題」「開発への課題」「民主化への課題」の3つの報告書を立て続けに提出した。そして、2000年にアナン事務総長が「我ら人民ー21世紀における国連の役割」を提出。(これにおいて「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」という人間の安全保障の基礎概念をアナン事務総長が始めて使用。これは私自身からの情報。)これに対して、内田教授は2000年のときと現在の報告書
では現状分析は変わっていないとしている。

2)次に世界情勢の背景の変化として、9.11事件から多国間主義の再確認へとイニシアチブが発展。「人道的介入」と「2つの主権」「保護する責任」「人間の安全保障」「より安全は世界ー我ら共有の責任」「開発へ投資する」などの報告書が作成され。これらを土台にして、アナン事務総長報告書が作られているとした。そのため、アナン報告書は一般的な国際合意に基づいて作られており、報告書を批判する場合は、これまでの報告書などを再検討する必要性があるとして、批判論者に対する文責の必要性を述べる。また、イラクをめぐる分裂、アメリカの行動に対する認識、アメリカが多国間主義にどのような影響を持つのかなどが9.11後の情勢を踏まえて、影響を与えているとした。

私個人としては、より深く報告書の流れを吟味しても良かったと考える。1997年にアナンが出した改革提言の報告書や、その後の「さらなる変化への課題」など国連改革に関する他のアナン報告書との関連性も述べられていないし、「ブラヒミ・レポート」や、「グローバルガバナンス委員会報告」
といった重要視されている報告書との関わりはないのかなど、突き詰める部分は多いと考える。時間がなかったのであろうか

2.『より大きな自由の中でー万人のための開発、安全保障と人権へ向けて』
次に報告書自体の内容に入る。アナン事務総長は「開発」「安全保障」「人権」の関連性を強調し、国際社会の努力は3点全ての視野においてなされるべきであるとする。具体的には以下の4つの内容に分かれる。

1)開発(ODA増加について述べる) 
これについては貧困と環境について独立してより大きな比重になったとする。前の香西先生の話の時にはアナン報告書においてハイレベル委員会の貧困・感染症・環境という項目がはずされているとしていたが、内田先生は大きな比重になったと述べて矛盾している気がしたので個人的に解釈してみたが、おそらく、安全保障項目としてはずれ、独立した貧困・環境として扱われているという意味だと思われる。

2)安全保障 、平和構築委員会の設置と予防的措置と武力行使基準について、この辺はハイレベル委員会の内容をだいたいにおいて踏襲している。より安全保障のみに視点が重視されている。

3)人権。人権理事会の設置、「保護する責任」についてハイレベル委員会の提言が乗った。これもあまり教授は触れていなかったが、私個人としては「人権理事会」の扱いがハイレベル委員会のものと変わっていることが気になった。ハイレベル委員会報告書では人権理事会は安保理などと並列の新機関として将来的に考えるものとされ、勧告の中には含まれずアイデアとして盛り込まれているのみのものだったが、アナン報告書では勧告として具体的に含まれているからだ。他の下部機関
として扱いが下がっているが、その分、具体的に実施に移したいというアナン事務総長の意図が伺える。報告書のサブタイトルの人権をあげ、3つの重要分野にもしていることから、人権への取り組みへのアナン事務総長の意気込みが高いことがこの相違をもってもはっきりと理解できるのである。

4)改革 
その特徴は、一括方式であり、安保理を重視しており、期限をもうけているという3点だ。一括方式ということは安保理改革も含めて他の改革案とパッケージに包括的に国連改革を目指すということである。また、期限として9月というものを決めている。これは中国やアメリカが期限に対して反対しているなど、難しいのが現状である。

3.国連総会における討議の分析
これについて、表に分けてそれぞれの国の見解をまとめていた。ここで表をあげることはできないので特徴的なものを抜粋すると、P5ではアメリカは期限においてのみ反対をしており、人権理事会、平和構築委員会、ODA増額について賛成。中国ロシアも期限に反対。イギリスは9月に国連を新たにすると述べるが、フランスと伴に明確な指示を与えていない。ODAに関しては、ロシア、中国、フランスは増額を述べなかったが、イギリスは2013年までに0.7%を達成すると述べた。またフランスは国際課税を主張した。人権理事会について案の定、中国とロシアがさらなる狭義を必要と反対はしないが、支持もせず。フランスも正当性と効率性の問題をあげる。平和構築委員会についてはどのP5もおおむね賛成であり、実現性が高いといえる。その他の重要国としては、日本はODAは能力育成・自力を強調し、具体的な行動を示していないのに対して、ドイツは0.7%を2014年までに達成すると名言するなど、日本との違いが浮き彫りされている。これだけを見ても日本よりもドイツの常任理事国入りの方が容易な印象を受ける。途上国は人権理事会に対してあまり言及がなされていないか、あいまいな立場で支持がなかった。期限ついてもNAMが合意の必要性を訴え難色を示している。安保理改革に関してアナン事務総長個人としては、立場上何も述べていないが、日本の国名を新常任として発言するなど、恐らくA案を支持しているのではと先生は述べた。

4.批判と評価
最後に内田教授の見解として、4つの視点が指摘された。
1)国家中心主義
市民社会や民間セクターとの協働についてあまり触れられておらず、総会において協力したほうが良いとお世辞程度に述べられているに過ぎないと批判した。前年に提出された国連と市民社会との関わりについてのカルドーソ報告にはふれられていない。

2)現在の世界秩序のもとで
現状を前提にしており、それを大きく変えるような案は提示されていない。グローバル化のガバナンスをより重視できたのではないか?

3)提言の一貫性、現実性、未来への展望は?
平和構築委員会などは達成可能性が強く、現実性は高いものが多い。しかし、制度の改革に焦点が集まっているため、問題が矮小化される可能性がある。本当に問題が解決するのか、現状にどれだけ即しているのか、どう効果があるのか?などをもう一度考える必要性があるのではないか。とする。

4)改革案が指摘しない点
特権には義務を課すというものが考えられても良かったのでは?P5の問題が一つも考えられていない。常任理事国への財政義務、拒否権の制約など

以上が内田教授の発表であった。最初に歴史的なコンテキスト→具体的な報告書内容→総合的評価という流れが、前の香西先生よりも分かりやすい印象を作っていたし、検討内容をより深いものにしていた気がする。自分の研究にも勉強になる発表であったとおもう。


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